第45章

葵の視線がコードから外れ、春の顔に向いた。「一階で待たせて」

春はドアのところに立ったまま、動こうとしない。「葵、あなたが降りてこないなら、自分が上がるって言ってるわ」

春の声は低く、焦りが滲んでいる。「受付で十分引き止めたんだけど、彼、職員証と医師免許を直接デスクに叩きつけたの」

葵の指がようやくキーボードから離れた。保存をクリックし、エディタを閉じて立ち上がる。その動作は極めてゆっくりと制御されていた。まず手のひらでデスクを支える。力が入った指関節が白く変色した。お馴染みの眩暈が過ぎ去り、膝がしっかりと身体を支えられるようになってから、ようやく手を離す。

春はデスクを支えるその手...

ログインして続きを読む